国立大学法人 岡山大学

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世界最高レベルの有機薄膜トランジスタを開発

2014年05月22日

 岡山大学大学院自然科学研究科の岡本秀毅准教授、江口律子助教、久保園芳博教授らの研究グループは、ベンゼン環がW型に繋がった「フェナセン」といわれる分子のうち、5個のベンゼン環からなる「ピセン」に炭素14個からなるアルキル鎖を2個付けた分子の効率的な合成法を開発。この物質を使って有機薄膜トランジスタとして世界最高レベルの電界効果移動度を示す「トランジスタデバイス」を実現しました。本研究成果は、2014年5月23日18時(日本標準時)にScientific Reportsにおいて公開されます。
 本研究成果は、有機薄膜トランジスタの性能を飛躍的に上昇させ、トランジスタの活性層としてフェナセン型の分子が極めて有用であることを示しています。有機薄膜を活性層として用いるトランジスタは、フレキシブルディスプレイの駆動、電子ニューズペーパーの実現、フレキシブルICタグの作製などの次世代エレクトロ二クスを支えるデバイスとして期待が高まっています。
業績:
 岡山大学大学院自然科学研究科の岡本秀毅准教授、江口律子助教、久保園芳博教授らの研究グループは、2008年以降、ベンゼン環がW型に繋がった「フェナセン」といわれる分子を有機トランジスタの活性層として応用する研究を行ってきました。最近、フェナセン型の分子の中で、5個のベンゼン環からなる「ピセン」に炭素14個からなるアルキル鎖を2個付けた分子の効率的な合成法を開発しました。この物質を使って有機薄膜トランジスタを作製して、世界最高レベルの電界効果移動度を示す「トランジスタデバイス」を実現しました。得られた移動度は、21 cm2 V-1 s-1と従来の有機薄膜トランジスタに比べて、非常に高い値を示しており、有機薄膜トランジスタとしては世界最高レベルの記録を示しました(作製したデバイスの移動度の平均値でも14 cm2 V-1 s-1であり極めて高性能です)。このデバイスは、誘電絶縁体として、「チタン酸ジルコン酸鉛」を使っており、低電圧駆動することも確認しました。

作製したトランジスタの写真

見込まれる成果:
 岡山大学で新たに合成された材料を使って、世界最高レベルのデバイスが作製されたことは、有機エレクトロニクスを使ったフレキシブルディスプレイの駆動、電子ニューズペーパーの実現、フレキシブルICタグの作製などの次世代エレクトロ二クスデバイスの実用化に、この系列の分子が大きく貢献できることを意味します。岡山大のこれまでの精力的な研究で、フェナセン分子を使った有機薄膜トランジスタが、非常に高い電界効果移動度を示すことは徐々にわかってきました。たとえば、6個のベンゼン環からなる[6]フェナセン薄膜電界効果トランジスタが、7.4 cm2 V-1 s-1の高移動度を示すことは、昨年我々が報告しています。今回のアルキル置換ピセンを使った薄膜トランジスタが、それを上回る高移動度を示すことから、将来の有機トランジスタの実用化のために、フェナセン系列の分子が極めて有用であることが立証されました。この物質は空気中においても非常に安定で、有機トランジスタの問題点としてあげられる「空気中での不安定性」も解決しています。高誘電性の絶縁膜である「チタン酸ジルコン酸鉛」を使って、しきい電圧(絶対値)10 V以下がすでに実現しているため、実用化に向けてのハードルは低いものになっています。

用語説明: 
有機薄膜トランジスタ: 有機薄膜を活性層として用いるトランジスタの総称。柔軟性・軽量性などの面からフレキシブルエレクトロニクスとして、次世代のエレクトロ二クスを支える基盤技術として期待されている。

電界効果移動度: トランジスタの中の電子や正孔(電子の抜けた孔)の動きやすさの指標。電場をかけた時に電子(正孔)が移動する速度と電場の間の比例定数。移動度が高いトランジスタは、高速応答することができるので、高移動度を実現することが重要な課題となっている。

フェナセン分子: ベンゼン環がW型に縮合した分子の総称。この分子は直線状にベンゼン環が縮合した分子(アセン系列の分子)とは異なり、化学的に安定でバンドキャップが大きい。この系列の分子はトランジスタ応用した時に極めて高い特性が出ることを本研究グループが発見している。

報道発表資料はこちらをご覧ください[PDF]

添付資料はこちらをご覧ください[PDF]


<お問い合わせ>
岡山大学大学院自然科学研究科
教授 久保園芳博
(電話番号)086-251-7850
(FAX番号)086-251-7903

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