岡山大学
大阪大学
理化学研究所
京都産業大学
◆発表のポイント
- 光合成で、光エネルギーの転換反応は「チラコイド膜」という膜の上で起こります。
- この、光合成の足場、ソーラーパネルともいえるチラコイド膜を維持するしくみについてVIPP1と呼ばれるタンパク質の機能を明らかにしました。
- このタンパク質の利用で、チラコイド膜を強化して高温に強い植物を作るなど、光合成の効率を高め、作物の生産性を向上する技術への貢献が期待されます。
岡山大学学術研究院先鋭研究領域の坂本亘教授らは、大阪大学蛋白質研究所の栗栖源嗣教授と川本晃大准教授、理化学研究所・環境資源科学研究センターの豊岡公徳上級技師、京都産業大学生命科学部の寺地徹教授らのグループと共同で、光合成の光エネルギー転換反応が起こる「チラコイド膜」を維持するVIPP1と呼ばれるタンパク質のはたらきを明らかにし、このタンパク質を利用して高温に強い植物を作り出すことに成功しました。
光合成は、生命が光からのエネルギーを使うことができる唯一の反応で、水と二酸化炭素から酸素と炭素化合物を作り出す地球上でも重要な化学反応です。この反応は、光合成をする生物だけが持つ「チラコイド膜」という袋状の膜で起こります。光合成の足場となるこの膜を維持するしくみは詳しくわかっていませんでしたが、今回、坂本教授らはVIPP1と呼ばれるタンパク質の細胞内における構造とその挙動を明らかにしました。このタンパク質は長いフィラメント状の構造が束状になって膜に隣接しており、高温などのストレスに応じてその形を変化させていました。また、植物(タバコ)でVIPP1タンパク質をたくさん作らせると高温に強くなることも突き止めました。生命の源、光合成の理解が進むとともに、環境に強い植物の育成にも役立つことがわかりました。
本研究成果は4月8日(アメリカ東部時間)、米国の国際科学誌「プラントフィジオロジー(Plant Physiology)」のArticleとして掲載されました。
◆研究者からひとこと
光合成は、光を利用して水と二酸化炭素を原料に有機物やエネルギーを作る、私たちの生活に欠かせない驚くほど精巧な反応です。植物が持つ、未知の光合成の能力を理解して光合成をデザインしてみたいと思っています。ちなみに、葉っぱが緑に見えるのは、チラコイド膜があるからで、ここから地球上の酸素が作られているんですね。 | ![]() 坂本教授 |
■論文情報
論 文 名:The thylakoid membrane remodeling protein VIPP1 forms bundled oligomers in tobacco chloroplsts
掲 載 紙:Plant Physiology, 2025年4月8日(アメリカ東部時間)
著 者:Sarah W. Gachie, Alexandre Muhire, Di Li, Akihiro Kawamoto, Noriko Takeda-Kamiya, Yumi Goto, Mayuko Sato, Kiminori Toyooka, Ryo Yoshimura, Tsuneaki Takami, Lingang Zhang, Genji Kurisu, Toru Terachi, and Wataru Sakamoto
D O I:https://doi.org/10.1093/plphys/kiaf137
■研究資金
本研究は、科学研究費(学術変革領域研究(A)および基盤研究B)、公益社団法人大原奨農会の研究助成により行われました。また本研究の一部は、岡山大学の生命科学RECTOR国際光合成拠点プログラムの支援も受けています。
<詳しい研究内容について>
生命の源、光合成の足場を保つしくみの解明~「足場=チラコイド膜」を守り植物を高温に強くする~
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院先鋭研究領域
光環境適応研究グループ
教授 坂本 亘
(電話番号)086-434-1206
(HP)https://www.rib.okayama-u.ac.jp/