◆発表のポイント
- 生涯学習の多い高齢者は、加齢に伴って「獲得」するものが増えるというポジティブな意識が高く維持される。
- 身体活動の多い高齢者は、加齢に伴って「喪失」するものが増えるというネガティブな意識が低く維持される。
- 研究開発が進むことで、超高齢化社会がより充実したものになることが期待される。
近年の高齢者研究では、高齢者の加齢に係る変化に関する意識(主観的老い)が注目を集めています。主観的老いを測定する代表的な指標に、Diehl & Wahl(2010)が提唱した「加齢に係る変化意識」があります。「加齢に係る変化意識」は、加齢に伴って「獲得」するものが増えるというポジティブな意識と、加齢に伴って「喪失」するものが増えるというネガティブな意識の二側面から構成されます。先行研究によると、「獲得」の高さは主観的幸福感と正の相関を示し、「喪失」の高さは抑うつと正の相関、主観的幸福感や身体的健康と負の相関を示すことが明らかとなっています。「加齢に係る変化意識」を簡便に測定する尺度の日本語版(白石・堀内・Brothers,2024)は既に開発されており、多くの研究で使用されています。
岡山大学大学院社会文化科学研究科の白石奈津栄大学院生と岡山大学学術研究院社会文化科学学域の堀内孝教授の研究グループは、大阪大学中川威准教授と兵庫教育大学大学院山本康裕大学院生を新たなメンバーとして迎え、70歳以上の日本人高齢者878人を対象に12カ月間にわたる縦断調査を実施しました。この調査では、「加齢に係る変化意識」に影響を与える要因として、「生涯学習」と「身体活動」に着目しました。マルチレベル分析の結果、生涯学習の多い高齢者は「獲得」のポジティブな意識が高く維持されること、また、身体活動の多い高齢者は「喪失」のネガティブな意識が低く維持されることが明らかとなりました。
この研究成果を、老年学および老年医学の分野でもっとも権威のある学会であるGSA(Gerontological Society of America)の年次大会(GSA Annual Scientific Meeting)で発表しました(2024年11月、シアトルコンベンションセンターにて開催)。
この研究は、高齢者がより良い生活を送るための重要な手掛かりを提供します。生涯学習と身体活動を通じて、前向きな主観的老いの体験を促進し、健康的な老後を支援できます。私たちの研究が、多くの高齢者の生活の質向上に寄与することを願っています。 | ![]() 右:岡山大学大学院博士後期課程(JST次世代研究者挑戦的研究プログラム) 白石奈津栄 左:コロラド州立大学 Allyson Brothers Associate Professor | ||
![]() 大阪大学 中川威准教授 | ![]() 岡山大学 堀内孝教授 | ![]() 兵庫教育大学大学院 (日本学術振興会特別研究員) 山本康裕 |
■論文情報
1.発表タイトル:Multilevel Analysis of AARC Gains and Losses in Older Adults
掲載誌:Innovation in Aging、 Volume 8、 Issue Supplement_1、 2024
著者:Natsue Shiraishi、 Yasuhiro Yamamoto、 Takeshi Nakagawa、 Takashi Horiuchi
2.論文名:加齢に係る変化意識尺度(AARC-10 SF)の日本語版開発とその信頼性および妥当性の検討
掲載誌:心理学研究
著者:Natsue Shiraishi、 Takashi Horiuchi、 Allyson Brothers
DOI:https://doi.org/10.4992/jjpsy.95.23203
URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpsy/advpub/0/advpub_95.23203/_article/-char/ja
■研究資金
この研究は、以下の支援を受けて実施しています。
・Foundation of Global Life Learning Center JST SPRING
・JSPS(21H00943)Methodological foundation for capturing pre- and post-loss changes associated with aging
・JST次世代研究者挑戦的研究プログラム JPMJSP2126
<詳しい研究内容について>
高齢者には生涯学習と身体活動がお勧め!~主観的な老いの体験に対するポジティブな効果を縦断研究で実証~
<お問い合わせ>
岡山大学大学院社会文化科学研究科
博士後期課程1年 白石 奈津栄
岡山大学学術研究院社会文化科学学域(文)
教授 堀内 孝
(電話番号) 086-251-7404(研究室)