◆発表のポイント
- 斜視(共同性斜視)は、両目の視線がずれているものをいい、小学生の1%程度に見られるありふれた疾患ですが、立体視など両眼を使う機能に影響を及ぼすことがあります。
- 特発性上斜筋麻痺は、先天性の場合、幼少時に頭を傾けるような動作で気づくことができ、代償不全型の場合、年をとって目が疲れやすい、ものが二重に見えるという症状で診断されます。
- 両疾患とも遺伝的背景があることが知られており、その詳細は不明です。
- 全ゲノム関連解析(GWAS: genome-wide association study)は、疾患群と対照群との間でゲノム全体のどの部位に差があるかをDNA配列の1塩基多型を使って解析する遺伝統計学の方法です。
- 今回、斜視と上斜筋麻痺の全ゲノム関連解析で、候補となる遺伝子にたどりつきました。
岡山大学学術研究院ヘルスシステム統合科学学域(医)生体機能再生再建医学分野(眼科)の松尾俊彦教授と岡山大学病院眼科の濱崎一郎講師、東京大学大学院新領域創成科学研究科の鎌谷洋一郎教授、京都大学大学院医学研究科附属ゲノム医学センターの松田文彦教授、山口泉講師、川口喬久助教、遺伝統計解析専門会社である株式会社スタージェンの中園一幸、上辻茂男、斎藤聡社員は、内斜視と外斜視を含む斜視、特発性上斜筋麻痺の患者様方からいただいた末梢血ゲノムDNAを使って、全ゲノム関連解析を行い、候補となる斜視関連遺伝子にたどりつきました。
本研究成果は、2024年6月24日、スイスの国際分子科学誌「International Journal of Molecular Sciences」に掲載されました。
本研究により、斜視や上斜筋麻痺の原因や治療を考えるうえでの新たな手掛かりになると期待されます。
◆研究者からひとこと
2000年、岡山大学倫理委員会の承認を得て斜視や上斜筋麻痺の患者様方から末梢血をいただいてゲノムDNAを抽出することを始めて、2019年には全ゲノムの1塩基多型 (SNP) を決め、遺伝統計学を使って解析する研究がやっと実りました。岡山大学病院を受診くださった患者様方に感謝し、病因が明らかになり少しでも将来の治療に役立つようになればと思います。研究費はトレハロース点眼薬の実施許諾料からの松尾俊彦への発明者配分という個人資金を活用しました。トレハロース点眼薬は欧州では一般薬として市販されていますが、日本では残念ながら市販されていません。個人の特許収入を研究に活かすことができたのも研究を行っている臨床医としては嬉しいことです。 | ![]() 松尾俊彦 教授 |
■論文情報
論 文 名:Genome-Wide Association Study with Three Control Cohorts of Japanese Patients with Esotropia and Exotropia of Comitant Strabismus and Idiopathic Superior Oblique Muscle Palsy.
掲 載 誌:International Journal of Molecular Sciences 2024;25:6986.
著 者:Toshihiko Matsuo, Ichiro Hamasaki, Yoichiro Kamatani, Takahisa Kawaguchi, Izumi Yamaguchi,
Fumihiko Matsuda, Akira Saito, Kazuyuki Nakazono, Shigeo Kamitsuji.
D O I:https://doi.org/10.3390/ijms25136986
U R L: https://www.mdpi.com/1422-0067/25/13/6986
■研究資金
<詳しい研究内容について>
斜視や特発性上斜筋麻痺の発症の手がかりを発見!
<お問い合わせ>
岡山大学学術研究院ヘルスシステム統合科学学域
(岡山大学病院眼科)
教授 松尾俊彦