「歯科ペインクリニック」とは
口腔顎顔面に発生した「痛み・知覚異常」に対して、器質的病変が認められない、または原因がわかっていても、原因に対する治療ができない場合が対象となります。口腔顎顔面には、歯、口腔粘膜、顎骨、咀嚼筋、顎関節、唾液腺、鼻、眼、副鼻腔、血管、神経などの組織が小範囲に集中しているため、痛みの原因が複雑であったり、また症状が不明瞭であることがあります。このため、痛み・知覚異常の診断が困難な場合が少なくなく、いわゆる「原因不明の痛み」として扱われてしまい、痛みに長期間患わされてしまうことがあります。まず、痛みの原因を特定することが重要ですが、痛みの原因が特定できない、あるいは治癒しているにもかかわらず痛みだけが長期間残存持続している場合、「慢性痛」と診断し、痛みそのものを疾患として扱い、痛みに対する対症療法を中心に行うことも、この分野での特徴です。
一般に、痛み・知覚異常の診断と治療をおこなう専門領域が「ペインクリニック」ですが、口腔顎顔面に発生した痛み・知覚異常については、原因が複数混在していることが多く、特に、歯科疾患に関連することが多いため、歯科疾患の知識とペインクリニックの知識を兼ね備えた専門分野が必要です。それが、「歯科ペインクリニック」です。必要に応じて、麻酔科・蘇生科ペインセンター、脳神経外科、神経内科、形成外科、耳鼻咽喉科、眼科、皮膚科、内科、精神科、心療内科、放射線科などに紹介または連携して、痛み・知覚異常の治療に当たっています。
適応
1.口腔顎顔面の神経因性の疼痛(神経の異常による痛み) 三叉神経痛など 2.口腔顎顔面の筋肉痛(主に咀嚼筋の異常収縮による痛み) 筋・筋膜痛など 3.口腔顎顔面の心因性疼痛(ストレスが増悪因子となっている痛み) 舌痛症など 4.口腔顎顔面の複合性疼痛(複数の原因が混在している痛み) 咬合の異常による筋・筋膜痛など 5.口腔顎顔面の知覚異常(神経損傷などで発生した知覚の異常) 歯周炎、抜歯、手術などに伴う下歯槽神経損傷など 6.口腔顎顔面に発生する特殊な疼痛性疾患 7.歯科疾患による疼痛で原因が特定できないもの 8.口腔顎顔面のその他の痛み・知覚異常
方法
痛み・知覚異常は身体の危険信号ですが、必ずしも症状のある部位の危険を知らせているわけではありません。全身の健康状態、心理状態、ストレス負荷などが、痛み・知覚異常の程度を増強している場合が比較的多いです。また、これらの「全身的背景」は痛み・知覚異常の感受性にも影響を及ぼすことが少なくありません。さらに、なにげなくおこなっている、または無意識のうちにおこなってしまっている「習慣」が、痛み・知覚異常の主な原因であったり、痛みを増強している場合があります。よって、診断、治療の際には全身の健康状態、心理状態、ストレス負荷などの全身的背景、および習慣を含めて評価、改善する必要があります。
痛み・知覚異常はまず、診断することが必要ですが、原因がどうしても特定できない場合、または原因病変に対する治療(原因療法)ができない場合、さらには原因療法が有効でない場合があり、さらには、全身的背景、習慣などが加味されることによって、非常に複雑になってしまう場合があります。これらの場合、対症療法と生活改善指導を中心に、痛み・知覚異常に対する治療目標を、他の疾患のように「完治(痛み・知覚異常が全くなくなる)」ではなく、「痛み・知覚異常は残存するが、日常生活では気にならない」ところに、設定することがあります。さらに、「痛み・知覚異常は残存するが、日常生活ができる」ところが目標となる場合もあります。治療法に限界がある場合、副作用と作用とのバランスから、これらの目標に設定せざるを得ない場合もあります。このことは、「痛み・知覚異常を我慢する」ということではなく、痛み・知覚異常の症状が少しでも改善していくのを、時間をかけて、治療観察していくということです。 治療法は「歯科ペインクリニック」だけでなく、他科での治療法も含めて以下に示します。
1.診断 1)問診 2)器質的病変の検査 ・視診・触診 ・レントゲン・MRI検査 ・血液検査 ・歯科的検査 ・その他 3)神経学的検査 ・感覚検査
 ・診断的トリガーポイント注射 ・心理テスト(健康調査票など)
 ・その他 4)診断的薬物投与 5)他科専門分野への紹介 6)その他 2.治療法 1)薬物療法 ・神経の興奮を抑制する薬物:抗てんかん薬・抗不安薬・抗うつ薬など ・筋弛緩作用を有する薬物:筋弛緩薬・抗不安薬など ・鎮痛薬:非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)・麻薬性鎮痛薬など ・その他 2)神経ブロック ・トリガーポイント注射 診断的トリガーポイント注射 知覚遮断的トリガーポイント注射(高濃度局所麻酔薬) ・局所麻酔薬による知覚神経ブロック
 オトガイ神経ブロック 眼窩下神経ブロック 下歯槽神経ブロック 上顎神経ブロック 下顎神経ブロック ・高周派熱凝固による知覚神経ブロック−麻酔科・蘇生科ペインセンターと連携 ・交感神経ブロック 星状神経節ブロック(局所麻酔薬) 3)歯科的加療 ・スプリント療法
 ・歯冠修復・義歯による咬合再建 ・歯科的炎症の消炎 ・その他 4)外科的療法 ・三叉神経減圧術(神経血管減圧術)−脳神経外科へ紹介 ・三叉神経末梢枝減圧術−必要に応じて形成外科に依頼 ・三叉神経末梢枝捻除術 ・その他 5)理学療法 ・温熱療法
 ・その他 6)心理療法 ・面接による痛み・知覚異常の整理整頓 ・痛み・知覚異常の自己評価 ・自律訓練法 ・その他 7)生活改善指導 ・日常生活の客観的観察 ・自己ストレス評価 ・痛み・知覚異常に悪影響のある習慣の発見と改善 ・痛み・知覚異常に好影響のある因子の発見と応用
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